砂子、という言葉を初めて聞いたという方もいるかもしれない。しかし、実は多くの方が一度は口に出したことがあるのではないだろうか。七夕の歌を思い浮かべていただきたい。「お星さまきらきら、金銀砂子」というフレーズである。あの「きんぎんすなご」は「砂子」という伝統工芸を指していたのだ。漆器だけではなく、日本画の技法としても知られている。
シチズンAQ4103_16E
ブラックとゴールドのコントラストが華やかさとシックな存在感を両立させている。ダイアル部分は土佐和紙、その上には砂子蒔きの技法が用いられている。
さて、本作は黒く染め上げた土佐和紙に、400年以上の歴史を持ち高い品質を誇る金沢の金箔、そして会津塗の工程で培われてきた筒に砂状の金銀箔を入れて、紙の上に振り出す「砂子蒔き」の技法が使われている。日本各地にまたがる伝統素材と技術、さらに「エコ・ドライブ」をはじめとする先進のテクノロジーが結集して生まれたのがこの唯一無二のダイアルなのだ。土佐和紙は高知県の工房「ひだか和紙」、箔を文字盤に配置する工程は福島県会津若松の漆の老舗「坂本乙造商店」とのコラボレーションによるものだ。
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和紙ならではの風合いが感じられる。角度を変える度に違った表情を発見することができ、海外出張などでも話題の中心になれそうだ。
光をエネルギーにして駆動する「エコ・ドライブ」は文字盤の光の透過率を確保する必要がある。今回採用されている黒和紙は光の透過率があまり良いとはいえない素材と色である。さらに、箔を文字盤上に散らすため、通常よりも透過率に配慮しなくてはならないのが課題であった。そうした諸条件を加味し、本作における理想の文字盤としてイメージされたのが金鉱石であった。金鉱石は自然の金が斑状に含んだ金山で採掘される鉱石で、絶妙な量の金箔を一度筒に入れて平皿に振り出したあと、筆で1つ1つ配置していくという作業がなされている。これは非常に手間と技術がかかる手法であると同時に配置のセンスも問われる。その後、1枚ずつ和紙の文字盤の透過率を計測していくという地道な作業の積み重ねを経て、この文字盤は完成させられている。